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TRPG関連覚書
12 . May
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14 . April
楽園-2/14-、夜汽車-3/14- の後日談。
Nasatoさん作のカミーユのお話の樹視点。





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07 . June
用があるから出かけてくる。そういつものように、兄は出かけていった。帰りは遅くなるかもしれない、といっていた。
学生とは言え忍。なにか任務があるのだろう。追求することもなく、小百合は兄を見送った。
 
それが一昨日の朝。学校のある月曜になっても、兄は戻ってこなかった。
不思議な胸騒ぎを抱えたまま、小百合は身の入らない学業を終え、帰路を急いだ。
 
玄関に入るなり飛び込んできたものに、小百合の手にしていた通学鞄が落ちる。そこに広がっていたのは、赤。中心に倒れているのは、兄琢磨だった。
「お、お兄様!?」
靴を脱ぐことも忘れて駆け寄る。のぞき込めば、琢磨がうっすらと目を開いた。
「お兄様、一体、どうして」
「小百合……」
「動いてはなりません、今手当を」
血に汚れた手が、妹を制す。無駄だと、その手が告げていた。
「……小百合……すまない」
ぜえぜえとあえぎながら、実兄は彼女に手を伸ばし、彼女は震える手で、それを握った。
「すまない小百合、僕はもう、お前の面倒を見てやれない」
「やめてくださいお兄様。小百合は一人でも大丈夫です」
 そんなことを言わないで。そう言いたかった。しかし小百合にはできなかった。妹の性格をよく知る兄は、ただ、そうだな、と笑う。その口から、とうとうごぽりと血が湧き出る。忍の特効薬すらもうなんの意味もなさぬことを、二人は理解していた。
「赤刃、衆……」
「え?」
かすれた声が、最期に何かを伝えようと言葉を紡ぐ。
「僕達は、赤刃衆……全ては、様への忠義の為」
「赤刃衆……」
赤刃。それは主の名。二人が本来名乗るべき家の名。
「お前に、知っておいてほしいことがある」
 
「僕の机を。お前ならば読み解けるだろうから」
 
僕の机。それは、彼と彼女しか知らない、二人の隠れ家の机を指しているのだと、小百合は悟る。そして、もはや琢磨にはそれを自らの口で語る時間すらないのだと言うことを。
 
「頼む、小百合……お前が守るんだ」
血塗れた手が、そっと頬に触れる。
「お前が父さんを、守るんだ」
妹は、静かに頷いた。
「わかっております、お兄様」
最後の力を振り絞るかのように兄は笑い、そしてかくりと、首がうなだれた。
「……お兄様」
自分の声がひどく震えていることに、小百合は気づかなかった。そしてしばらく、血だまりの中に一人、座り込んでいた。
 
 
兄の机の中からは、いくつもの書状が見つかった。
3人の血判。それは、小百合の兄達のもの。
琢磨、そしてもう長いこと会っていない二人の兄達が何をしていたのか。
薄々ではあるが、気がついていた話だ。だが、彼らは妹をその中に入れることをどこか躊躇っているようだった。
それがわかっていたから、小百合は兄を問いただしはしなかった。病に倒れた主を救うために彼らが何をしていたのか。
ついにこのとき、小百合は全てを知ることとなった。奇跡ともいえる秘術に頼らねばならないほどに、主の容態は悪化しているということ。そして兄の仇は不知火一族であることを。
小百合は読み終わった書状を再び机へと仕舞い、しばらく一人沈黙していた。
「お兄様のお気持ち、小百合はしかと受け止めました」
不意に、ぽつりと呟く。
兄は後を継げといいはしなかった。しかし、妹の心は決まっていた。
「赤刃衆はまだ欠けてはおりません」
しゅるりととりだした紙に、彼女は筆を走らせる。それは琢磨と同じ筆跡をしていた。
「そう、全ては、様への忠義のために……」
そして彼女は、遺された兄と共に、修羅にもならんと決意したのだった。
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