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06 . July
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14 . April
楽園-2/14-、夜汽車-3/14- の後日談。
Nasatoさん作のカミーユのお話の樹視点。







 修道院の応接室。そんな居心地の悪い待合室に俺はいた。居心地悪いと思いながらも、気まぐれにここを訪れたのは自分。だから、大人しく待っていた。
 しばらくすると、ぱたぱたとかわいらしい足音がきこえてくる。現れたのはシスター服を着た『幼馴染』だった。
 シスターねえ。ハーフだったし、クリスチャンなんだっけ? そんなに信心深かったのか、というよりあの内向的な性格だ、『あの』騒ぎの後にこの職業を決めたとなると、どうせ償いのためとでも言う話なんだろう。
 長年の片思いは実らず、一週回ったら横恋慕していた男に心を移して、結果このザマか。
 なにそれ楽しい。おもわず笑顔を浮かべてしまいそうだったが、こんなことではがれる俺の『人のいい幼馴染』の仮面でもなかった。
「みーちゃん、久しぶりー」
  長年の仮面を完璧にかぶったまま気楽に声をかける。するとカミーユははらはらと泣きだした。そのままこの子、俺に抱きついてぴぃぴぃと泣き始めるじゃない。『この世界』だから良いようなものの、『現実』でこんな餓鬼に服を汚されたらたまったもんじゃないと蹴っ飛ばしていただろう。
「いっちゃん、いっちゃぁぁん……」
 早く離れてほしくて、よしよしと頭を撫でる。
「もう、泣かないでよ、みーちゃんったら」
「ご、ごめんね、嬉しくて……もう会えないかと思ってたんだよぉ」
「あれれ、そうだったの?」
「だって、いっちゃんは私のいるところ知らないだろうなって思ってたし……わざわざ会いに来てくれる人、今までほとんどいなかったし」
 それもそうか。仲良し幼馴染は、解散してしまってるんだし、他にろくな友達もいなかったっけ。彼女は自分のひとりぼっち宣言に自爆してまた泣きそうになったが、かすかな自制心とやらをふりしぼりでもしたのか、俺に笑顔を向けた。
「そうだ、お茶淹れるね。いっちゃんは座っててね!」
 そのまま彼女は、お茶の用意にと去っていく。ばたばたと騒がしい。おどおどしてたままの方が、シスターには向いてただろうに。
「ごめんね、あんまり良いお茶とかないの」
しばらくして、熱い紅茶を注いだカップを差し出される。
「大丈夫、お茶に大切なのは淹れ方だから」
「うーん……美味しく淹れられたかなぁ」
 お盆を持ったまま彼女は首を捻る。ご賞味。うん、まあ悪くはない。
「合格ー」
 別にそもそも、こんなところのお茶に期待しちゃいない。
「……ありがとう」
  ほっとした表情で、カミーユは俺の前に座った。
「いっちゃん、今までどこで何してたの?」
「うーんそれはねー、な・い・しょ」
 妥当な質問だが、答えるのは面倒だ。一連の流れを覚えているのは俺だけなのだから。説明するとなると、あんたはもう死んだりしてる、ってところから教えてやりたくなってしまう。 
「……そっか。じゃあ、どうして急に会いに来てくれたの?」
「ふふ、どうしてかなぁ」
 そこに向かった理由を問われても、俺には答えようがない。ふと、『幼馴染』のことをふと思い出した。それくらいでいいってことじゃない?
「理由なんて、そんなに大事?」
「うーん、そう言われると……でも、何にしたって嬉しい。来てくれてありがとね、いっちゃん」
 かわいらしい微笑みに微笑み返す。ああ、どこまでもおめでたい子だ。
「……他のみんなは、どうしてるのかな」
「みーちゃん、連絡取ってないんだ?」
 我ながら白々しい言葉が飛び出る。
「うん。――いっちゃん、何か知ってる?」
 思わず、笑い出しそうになる。この子は何にも知らない。俺は知っている。
「……見かけたくらい。知ってるってほど知らない、かなぁ」
「そっか。でも、いっちゃんが元気そうでよかった」
 そりゃ俺は元気。この子たちが見せてくれた狂言は本当に楽しかった。
 踏切で見かけた馴染みの顔に、ちょっと声をかけた。俺がしたことはたったそれだけだけど……それでも十分。 こんな狭い世界、窮屈で、退屈で。少しは娯楽がないと、俺も退屈してしまう。 すでに追いかけっこにも、少し飽き始めているのだから。……とはいえ、捕まる気は毛頭ない。
「あ、そろそろ行かないと。あの子が来ちゃう」
 あの子を撒くのは慣れてきたが、あれでなかなか鼻が利く。あまり同じところに長居もしていられないのだ。
「……あの子?」
  朝比奈ちゃんよ、覚えてないでしょう?
「お茶ありがとね、みーちゃん」
「あ、あの……帰るなら、出口まで送るよ」
「大丈夫、大丈夫。みーちゃんの時間、使っちゃったから」
「いっちゃん」
「……また、来てね」
「うん、またね」
 俺の口からは、そんな返答がこぼれた。
 そんなつもりはないのに漏れたのは、なぜだったのだろうか。この世界自体に長居する気もないのに。 はやく比良坂の術をこじあけたいだけなのに……お涙ちょうだいのシスターなんかに、付き合いたくないのに。
 笑顔のカミーユが、俺に手を振る。俺もそっと振りかえす。
「本当に、うらやましい子」
 また独り言が口からこぼれる。 なにがうらやましいのか、今となってはよくわからないけれど。
 
 さて、結局俺は、何をしにここにきたんだったか。
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